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介護記録の文書負担を社内AIで軽減する|2040年度の必要数272万人を見据えた記録設計

介護の現場では、人手不足が慢性的な課題となっています。増員が追いつかないなか、職員1人当たりの負担をどう軽くするかが問われています。そこで見落とされがちなのが、記録の後回し、申し送りの事後文章化、同じ情報の複数様式への入力し直し——といった文書業務の積み重ねです。本記事は主に日々の介護記録(経過記録)を対象に、その文書負担を社内AIで軽減する設計を背景から試行手順まで整理します(ケアプランの文案づくりは応用先です)。

増員と並行して「記録の文書負担」に着手する理由

人材の確保は重要な対策ですが、人数の確保だけでギャップを埋めるのは容易ではありません。

増員だけでは埋まりにくい需給ギャップ

政府の推計では、2040年度に必要な介護職員数は約272万人で、2022年度と比べて約57万人の増加が見込まれます[1]。この約57万人は不足数ではなく、2022年度実績と2040年度必要数の差です。2025年10月時点の調査では、従業員が不足していると感じる事業所は65.8%にのぼり、職種別では訪問介護員で82.9%に達します[2]。労働者調査では、仕事上の悩み・不安・不満で最も多いのは「人手が足りない」で52.3%でした[2]。

採用と並行して1人当たりの間接業務を減らすのが現実的です。社内AI(法人が承認した業務用のAI環境)は、人手不足の解消ではなく記録の一部作業を軽くする手段です。

介護ソフトの利用は進む一方、音声入力の利用は限定的

介護現場のICT化は一定程度進んでいます。介護ソフトで利用者情報の入力・保存・転記機能を日常的に利用する事業所は72.2%、施設系(入所型)では83.2%です[2]。

一方、音声をテキスト化する機能(音声認識)の利用は、パソコンで13.2%、タブレット端末で16.0%にとどまります[2]。これらの数値からは、介護ソフトの入力機能と音声テキスト化機能で、日常的な利用率に差があることが分かります。ただし、この調査だけでは、職員の負担やAI導入の効果までは判断できません。

社内AIで記録の文書負担を軽減する設計

生成AIは入力情報を記録文に整える下書き支援に使える一方、事実の正確性は保証しません。状態の評価・ケアの判断・報告の要否は職員が担い、AIには判断させない——この役割分担を記録業務に組み込むのが鍵です。

音声やメモから介護記録の下書きを作る

まず、口頭の申し送りや短いメモを起点に、生成AIで記録文の下書きを作ります。

厚生労働省も生産性向上の柱に「記録・報告様式の工夫」「情報共有の工夫」を挙げています[3]。ただし、音声の文字起こしや介護記録ソフトへの登録・連携は、利用するサービスや介護ソフトの対応で異なり、社内AIだけで実現するとは限らないため、個別に確認します。

AIで文案のばらつきを抑え、データ連携で転記を減らす

次に、AIに参照先を与えます。社内文書を検索するRAG(検索拡張生成)で、事業所の様式や記載ルールを参照させれば、ルールに沿った文案を生成しやすくなります。ただし導入だけで記述のムラは消えず、様式・指示文の整備と生成結果を定期的に評価することも必要です。

過去の利用者記録まで参照させる場合は、要配慮個人情報を含むため統制が要ります。参照先を必要な資料・利用者・業務に限定し、権限で範囲を制御します。また、古い記録や誤記が根拠にならないよう、参照元の明示や更新状況の確認も設けます。

一方、転記や二重入力の削減は、生成AIとは別に、対象データのシステム間連携で検討します。ケアプランには国の連携標準仕様があり、第5.0版も公開されています[4]。ただし連携の対象や利用中ソフトの対応は個別に決まるため、あらゆる二重入力を一律に解消するものではなく、対応状況は最新の公式案内で確認してください。RAGの社内様式参照とは別の仕組みです。

公式シミュレーションが示す削減時間は実績値ではなく、一定の条件に基づく概算です。事業所の規模や連携先、運用方法によって実際の効果は異なります。しかもこの試算は主に居宅介護支援事業所が対象です[5]。同システムは2027年1月に介護保険資格確認等WEBサービスへ移行予定で、公式案内では2026年12月中までに利用登録を含む移行準備を促しています[5]。

要配慮個人情報だからこそ、ガバナンスを設計に組み込む

介護記録やケアプランには、利用者を識別できる情報に加え、病歴や診療・健康診断の結果など、要配慮個人情報に当たる情報が含まれる場合があります。入力の前に統制の設計が要ります。

生成AIに健康情報を入れるときの注意点

個人情報保護委員会は、2023年の注意喚起で、生成AIの利用時に確認すべき点を示しています[6]。個人データを入力する場合は、利用目的に必要な範囲内かを確認します。個人情報保護委員会は、入力した個人データが提供事業者のAI学習等に利用される場合、個人データの第三者提供に関する規律が関係する可能性があるとして、利用規約の確認などを促しています。サービスや契約条件によって個人情報の取扱いは異なるため、利用目的や提供事業者の取扱いを確認し、特に機械学習への利用の有無を利用規約や契約条件で確認します。

同委員会は、生成AIの応答に不正確な内容が含まれるリスクにも注意を促しています。記録の下書きは原情報と照合してから利用します。この注意喚起は入力の一律禁止ではありませんが、サービスや契約条件ごとに慎重な確認が必要です。どの情報を入力してよいかの線引きは、生成AIに個人情報を入力してよいかの判断基準と利用ルールの整理も参考になります。

業務用の社内AI基盤に求められる統制

要配慮個人情報を扱うなら、「業務用」「社内AI」という呼び名ではなく、入力データの利用目的、学習への利用の有無、委託先・再委託先、保存・削除、アクセス制御、監査ログ、事故時の連絡、利用を承認する担当者といった中身を確認し、事業所のルールに合う環境を選ぶ必要があります。

権限管理・監査ログを含む生成AIガバナンスの設計方法は、社内AI全体に共通する土台です。

音声を起点にする場合は、音声データの保存・削除やアクセス権、録音時の説明も定めます。

制度面でも動きがあります。改正個人情報保護法は2026年7月17日に公布されました[7]。一部を除き、公布日から2年以内に政令で定める日から施行される予定です。2026年11月時点でも、政令・規則等の整備に向けた検討が続いています。最新の検討状況を個人情報保護委員会で確認しながら、いまから統制を前提に設計することが賢明です。

まず一つの記録業務から小さく試す

ここまでの設計は、全記録へ一気に広げる必要はありません。対象を絞り、期間と件数を決めて試すのが近道です。

最初に試す業務と、AIに渡す情報・出力の決め方

最初の対象は、事実の文章化が中心で、職員が原情報と照合しやすい業務——たとえば経過記録の下書き——から選びます。試行初期は過去記録を参照させず、記載ルールや空の様式・架空データから始めるとリスクを抑えやすくなります。ケアプランへ広げる場合は、利用者の意向や専門職の判断が関わるため、AIが代替しない前提で担当職員が確認・修正する運用を別途設けます。

続いて、AIに渡す情報・渡さない情報・出力項目を先に定めます。たとえば経過記録なら、架空のケースとして「14時、食事量は普段の半分。本人が『少し気持ち悪い』と話し、水分はコップ1杯。看護職へ報告」というメモを入力し、「入力にない事実は補わず、時刻・観察・発言・対応に分けて下書きし、不明点は『不明』と記す。報告の要否などの判断は職員が行う」と指示します。職員はこれらを原情報と照合し、承認してから登録します。実データでは、氏名のほか、時刻・状況・発言の組み合わせで利用者が特定されないかも確認します。

確認の担い手と、効果の測り方・続ける判断

試行は、次のチェックリストで進めると迷いません。

  1. 対象にする記録業務を一つ決める
  2. 導入前の作成・確認・登録にかかる時間を測る
  3. AIに渡す情報と、出力する項目を決める
  4. 確認担当者と、止める条件を決める
  5. 同じ範囲で試行し、総作業時間と誤り・修正の状況を比べる

効果はAIで作る時間だけでなく、入力・確認・転記まで含めた総作業時間で比べます。対象件数と期間を決めて記録します。続ける基準は試行前に決め、「総作業時間が導入前より短いか」「重大な事実誤認が出たら止めて原因を確認する」などを各事業所で定めます。

さいごに

介護記録へのAI導入は、記録全体を一気に自動化することではありません。対象を絞って下書きを任せ、職員が照合・承認し、総作業時間と正確性を測りつつ広げます。

記録の電子化で終わらせず、作成・確認・登録の工程に社内AIを効かせ、要配慮個人情報の統制と確認の責任を設計に織り込む。記録業務の見直しは人材確保の代替ではありませんが、職員の文書負担を測り、無理のない範囲で軽減策を試すことは、2040年度に向けた堅実な一歩になります。

出典

この記事を書いた人

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m-koshihara

ソリューションサービス事業部

5年以上Webアプリ開発に従事したのち、2023年よりSGCの導入を担当。法人向け生成AI活用について、導入や業務活用の視点から発信しています。

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