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やめる業務を決められない企業|AI導入で削減時間が消える理由

AI導入により業務効率化が進む一方、個人レベルでのタスク削減が業務全体の時間削減につながりにくい現象が見られます。ある調査では、生成AIを活用したタスクで平均16.7%の時間削減を実現したものの、実際に業務時間が減少したと回答した人は、約25.4%にとどまっています[1]。削減された時間のうち約61.2%が仕事に再投下され、その再投下分の75.4%が日常業務に充当されている構造が浮かび上がっています[1]。本記事では、企業が「やめる業務を決められない」背景にある構造的要因を探ります。

削減時間が消える現象の実態

タスク削減と業務時間削減のギャップ

生成AIを活用したタスクでは、一定の時間削減効果が確認されています。パーソル総合研究所の調査によれば、生成AIを活用したタスクで平均16.7%の時間削減が実現されました[1]。しかし、実際に業務時間が減少したと回答した人は、約4人に1人にとどまります。

この調査結果から考えられる一因として、削減された時間の再投下先が挙げられます。調査では削減時間の約61.2%が仕事に再投下され、その再投下分の75.4%が日常業務に充当されていることが明らかになりました[1]。つまり、AIによって生まれた余裕時間は、既存の日常業務に吸収されやすい構造にあります。

日本企業のDXの取り組みを分析したIPAの調査では、コスト削減などを成果として挙げた企業の割合は米独より高い一方、売上高増加や利益増加を成果として挙げた割合は低いという特徴が明らかになっています[2]。こうした傾向から考えると、タスクレベルの効率化が進む一方で、削減時間を成長につなげる仕組みが課題となっていると言えます。

日常業務への吸収メカニズム

削減時間が日常業務に吸収される背景には、企業の意思決定プロセスが関係していると考えられます。削減時間の使い道をあらかじめ設計していない場合、効率化によって生まれた時間が既存の日常業務に再配分される可能性があります。

さらに、部門ごとの業務改善が全社的な業務見直しにつながらない場合、「部分最適」が課題となることがあります。デロイトが示すAgentic-BPRでは、業務の中に繰り返し登場する共通の動き(情報収集、判断材料の整理、回答案の作成など)を工程単位で横断的に整理する重要性が示されています[3]。しかし現実には、部門の壁を超えた業務の見直しが進みにくく、各部門が個別に効率化を図る結果、組織全体の最適化に至らないケースがあります。

こうした構造では、削減時間が各部門内の既存業務に再分配され、組織全体として「やめるべき業務」を特定し廃止する判断に結びつきにくくなる可能性があります。IPAの分析が指摘する「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」への転換の困難さが、ここに表れています[2]。

やめる業務を決められない構造的要因

削減時間の再投下先が決まっていない

AI導入時に削減時間の使い道を明確にしていない場合、効率化そのものが目的化し、生まれた時間が既存業務に吸収されやすくなると考えられます。一方、削減時間の再投下先を想定している事例もあります。

デロイト トーマツが実施した内部監査・J-SOX領域でのAI活用検証(対象案件20件)では、AIエージェントを適用した評価手続において、証憑評価・調書作成の工数を50%以上削減できたと報告されています。また、一部のケースでは、AIエージェントと自動化ツールを組み合わせることで、リードタイムを5営業日から3営業日に短縮できたとされています[4]。同社は、削減された工数を、リスク対応の強化、不備の真因分析、被監査部門とのコミュニケーション深化など、内部監査の高度化に活用できる可能性を示しています[4]。

この検証からは、AI導入の目的を「時間削減」ではなく「業務の質的転換」に置くことの重要性が示唆されます。削減時間の使い道を事前に設計しなければ、既存の日常業務に吸収されやすくなる可能性があります。

組織文化と「やめる」判断の難しさ

やめる業務を決められない背景として、実務上の観点から考えると、優先順位づけの基準があいまいなことも影響している可能性があります。例えば、「売上への貢献度」や「顧客への影響」といった視点で業務を評価する一方、「利益への貢献度」や「戦略上の重要性」といった明確な基準を持たない企業では、廃止候補の業務を特定しにくくなります。

中小企業を対象とした報告書では、「売上拡大が成功」という価値観から、「利益が生じる領域に事業を絞り込む」という視点への転換の必要性が指摘されています[5]。こうした視点を欠く場合、収益性や戦略的重要性が十分に検証されないまま、既存事業や関連業務が継続される可能性があります。

また、組織の評価制度や意思決定のあり方によっては、既存業務を継続することが優先され、業務の廃止や縮小が進みにくい場合があります。「担当業務を完遂する」「既存顧客を維持する」といった指標が評価の中心になると、「不要な業務を廃止した」「低収益事業から撤退した」という判断は、短期的には評価されにくい場合もあります。業務を廃止する意思決定には関係部門との調整が必要であり、調整コストを考えると、AI導入で生まれた余裕時間を使って既存業務を継続する方が、組織内の摩擦は少なくなる可能性があります。

効率化と成長のジレンマ

効率化偏重が成長投資を阻む

日本企業のDXの取り組みには、もう一つの構造的課題があります。IPAの分析によれば、コスト削減などを成果として挙げた企業の割合は米独より高い一方、売上高増加や利益増加を成果として挙げた割合は低いという特徴があります[2]。つまり、効率化を重視する傾向が強い一方で、成長のためのDXでは成果が出にくいのです。

この背景の一つとして、経営層の意思決定の優先順位が考えられます。短期的な収益改善を求められる環境では、確実に成果が見える効率化施策が優先されがちです。一方、新規事業開発や新市場開拓といった成長投資は、成果が出るまでに時間がかかるため後回しにされやすくなります。

こうした傾向は、AI導入で削減された時間の使い方にも影響を与えている可能性があります。調査で示された「削減時間の約61.2%が仕事に再投下され、その再投下分の75.4%が日常業務に充当」という構造[1]は、このジレンマの一例と言えます。効率化を追求するあまり、成長への投資機会を逃している可能性があります。

部分最適から全体最適への転換の困難さ

最後の構造的要因は、部門の壁を超えた業務最適化の難しさです。AI導入が部門単位で進められる場合、営業部門は営業支援AI、人事部門は人事業務AI、管理部門は事務処理AIといった具合に、各部門が個別に効率化を図ります。

しかし、デロイトが提唱するAgentic-BPRでは、「業務の中に繰り返し登場する共通の動き」を工程単位で横断的に整理する視点が重要とされています[3]。例えば、営業・人事・管理のすべての部門で発生する「情報収集」「判断材料の整理」「報告書作成」といった共通業務を、組織横断で標準化し自動化することで、より大きな効率化が期待されます。

こうした全社横断のAI活用を本格展開する際には、複数部門で共通利用できる基盤、社内文書を横断的に参照できるRAG、部門や役職に応じた権限管理、利用シナリオの統制といった要件が重要な検討項目になります。

ところが現実には、部門ごとの業務フローや書式が異なるため、横断的な標準化は容易ではありません。さらに、各部門が自部門の業務効率化を優先するため、全社最適の視点で業務を見直す機会が限られやすくなります。IPAが指摘する「内向き・部分最適」からの脱却[2]は、まさにこの課題を指しています。

さいごに

AI導入で削減された時間が消えてしまう現象は、技術だけでなく経営・組織設計の問題でもあります。本記事で取り上げた削減時間の使途、組織文化、効率化と成長のジレンマ、部分最適といった論点は、経営層の意思決定や組織設計と密接に関わると考えられます。

AI導入前に削減時間の使い道を想定し、業務の優先順位づけ基準を組織全体で共有することが重要です。さらに、「やめる」判断を評価する文化への転換、成長投資への資源配分が求められます。

AI時代の業務改革は、効率化ツールの導入だけではありません。何をやめ、何に時間を使うかを決める経営の意思決定です。削減時間を成長投資に振り向けられるかが、今後の企業競争力を左右する要因の一つになると考えられます。

部門横断で生成AI活用を進める際には、利用シナリオの標準化、社内ナレッジの参照環境、権限管理、利用状況の可視化を一体的に検討することが重要です。こうした全社運用を支える選択肢の一つとして、共通のAI基盤が挙げられます。企業向け生成AIアシスタント「Smart Generative Chat(SGC)」は、社内文書を取り込んで独自のナレッジを反映するRAG、利用者・グループ別の権限設定、業務別シナリオの標準化、利用コストの可視化が可能です。

全部門横断での生成AI活用や、社内ナレッジを活用した業務標準化をご検討の方は、Smart Generative Chatの機能をご確認ください。

Smart Generative Chatの機能を詳しく見る

出典

この記事を書いた人

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m-koshihara

ソリューションサービス事業部

5年以上Webアプリ開発に従事したのち、2023年よりSGCの導入を担当。法人向け生成AI活用について、導入や業務活用の視点から発信しています。

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