「RPA部隊をAIエージェントに刷新すべきか」。こうした問いが社内会議で浮上している企業は少なくない。しかし2026年現在、この問いかけ自体が誤りである可能性が高まっている。二択の枠を外した先に、AIエージェントとRPAを統合する設計思想——Automation Anywhereが「APA(Agentic Process Automation)」と呼ぶアプローチ——が主要ベンダーの間で強まっている。RPAを捨てるべきかどうかより、どう組み合わせるかを問うべき段階に来ている。

RPAの「壁」とAIエージェントの「穴」
定型処理の王者が抱える構造的限界
RPAはルールベースの定型作業を高速・高精度で処理する能力に長けている。受発注データの転記、請求書の照合、勤怠情報の集計——こうした「決まった操作の繰り返し」においてRPAの優位性は揺らがない。Precedence Researchの推計では、グローバルRPA市場は2026年に352.7億ドルへ拡大すると見込まれており[1]、「終焉」とは程遠い状況だ。
しかし問題は、導入後に顕在化する。システムのUI変更やフォーマットの微修正があるたびにボットは停止し、保守・改修コストが積み上がっていく。非構造化データ(手書き書類、自由記述フォーム、複雑な契約書)に対してRPA単体では弱く、OCRやIDPなどの補助ツールを組み合わせなければ対処できず、想定外の例外処理が発生すれば人手に戻すほかない。RPAを大量展開した企業ほど「ボット管理のための人員」が必要になるという逆説に、多くの現場が直面してきた。
AIエージェント単体では埋まらない”実行層”の空白
AIエージェントは文脈を読み取り、目標に向けて複数のツールを自律的に呼び出しながら処理を完結させる能力を持つ。RPAが「入力された手順を忠実に実行する」のに対し、AIエージェントは「目的を渡せば手順を自ら組み立てる」。この違いは根本的だ。
ただし、AIエージェント単体で業務自動化が完結するかというと、現実はそうではない。既存の基幹システムや業務アプリとの連携には、画面操作・API呼び出し・ファイル処理といった「実行層」が不可欠だ。AIエージェントは判断と計画には優れる一方、RPAが長年積み上げてきた「既存システムとの接続性」と「実行の安定性」を一から置き換えることは難しい。「考えることはできるが、動けない」状態に陥るリスクを内包している。

APAとは何か──統合の設計思想
“判断”と”実行”を分業させるアーキテクチャ
APA(Agentic Process Automation)は、AIエージェントとRPAを対立ではなく協調させる設計思想だ。役割分担はシンプルである。AIエージェントが「目標の解釈・プロセスの計画・例外への判断」を担い、RPAが「既存システムへの確実な操作実行」を担う。両者をオーケストレーション層が束ねることで、非定型の判断から定型処理の実行まで一貫した自動化ループが完成する。
具体的に想像すれば分かりやすい。受注メールをAIエージェントが読み取り、内容から必要な処理(在庫確認・価格照合・与信審査)を判断する。その結果を受けてRPAが基幹システムに正確に入力し、状況に応じて担当者への通知フローを起動する——これがAPAの一形態だ。AIが「考え」てRPAが「動く」。この組み合わせが「完結した自動化」を実現する。
主要ベンダーが一斉に舵を切った理由
この方向性はベンダー側も明確に認識している。UiPathは2025年にAgentic Automationプラットフォームを発表し、AIエージェント・RPAロボット・ツール・人間をオーケストレーションする方向へ明確に舵を切った。Automation Anywhereも「APA」という概念をいち早く打ち出し、AI推論エンジンとRPA実行層を統合したアーキテクチャを前面に押し出している。RPAの老舗ベンダーがこぞってエージェント統合に動いているという事実は、市場の読みではなく技術的必然を示している。
市場の変化も後押しする。ガートナーは2026年までにエンタープライズアプリの40%がタスク特化型AIエージェントを組み込むと予測した——2025年時点の5%未満から急拡大する見通しだ[2]。RPA単体では埋められない業務領域への需要が、ベンダーの開発方向を規定しているのである。

APA移行の現実と失敗しないための原則
過熱する期待とガートナーが警告する落とし穴
APAへの注目が高まる一方、ガートナーは冷静な警告を発している。2025年6月の予測では、エージェント型AIプロジェクトの40%超が2027年末までにキャンセルされるとされ、主因は「コスト肥大」「ビジネス価値の不明確さ」「リスク管理体制の不備」の三点だ[2]。技術が高度になるほど、導入の失敗もまた精巧になる。
この警告は、APAが不要だということを意味しない。問題はアーキテクチャではなく適用の仕方にある。何でもエージェントに任せようとする「過剰な自律化」と、RPAを捨てて一から置き換えようとする「完全移行の罠」——この二つを避けることが、2026年の自動化戦略における最初の判断になる。
二択の問いを捨てて設計すべきこと
APA的統合を実装する際に重要なのは、RPAとAIエージェントをそれぞれの強みで使い分けることだ。構造化データの繰り返し処理・既存システムへの安定接続はRPAに任せる。非定型の判断・複数システムをまたぐ文脈理解・例外発生時の対応選択はAIエージェントが担う。この境界を明確に設計しないまま「エージェントに全部やらせる」という発想で進めると、どちらの強みも活かせないシステムが出来上がる。
もう一つの原則は、人間の監視を設計に組み込むことだ。ガートナーが指摘した失敗の主因は「コスト肥大」「ビジネス価値の不明確さ」「リスク管理体制の不備」であり、ガバナンス不在のまま展開を急いだ結果だ。自律的に動くほど、ログ・承認フロー・異常検知の仕組みが重要になる。「止められる設計」があってこそ、「動かせる自動化」が信頼を得る。
さいごに
「RPAかAIエージェントか」という二択は、2026年においてすでに問いの立て方として古い。本当の問いは「どの業務の、どの判断層に、どの技術を当てるか」だ。APAはツールではなく設計思想であり、既存のRPA資産を捨てることなくエージェントの自律性を加えていくアーキテクチャである。先行ベンダーの動きとガートナーの予測が示すように、この統合は有力ベンダーと主要アナリストの間で有望な方向として扱われている。移行を「いつか」と先送りにするより、現在稼働中のRPAに対して「エージェントはどこで補完できるか」という問いを今すぐ立てることが、次の競争優位の起点になる。
出典
- [1] Robotic Process Automation (RPA) Market Size Expands from USD 35.27 Bn in 2026 to USD 247.34 Bn by 2035 – GlobeNewswire / Precedence Research
- [2] Gartner Predicts 40% of Enterprise Apps Will Feature Task-Specific AI Agents by 2026, Up from Less Than 5% in 2025 / Gartner Predicts Over 40% of Agentic AI Projects Will Be Canceled by End of 2027 – Gartner
