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AIエージェントだけでは足りない場面とは?Agentic Workflowが必要になる設計の分岐点

「AIエージェントを導入したのに、思ったように業務が回らない」——こうした課題が指摘される背景には、エージェント導入時に設計の違いが十分整理されていないケースがある。原因の多くは、技術の問題ではなく設計の問題だ。AIエージェントとAgentic Workflowは、名称が似ているために混同されやすい。しかし、この二つを区別して使いこなせるかどうかが、AI活用の設計成否を左右しうる重要な分岐点になっている。

AIエージェントとAgentic Workflowは似て非なるもの

Anthropicが引いた本質的な境界線

AIエージェントとAgentic Workflowの違いを最も明快に示したのは、Anthropicが公開した「Building Effective Agents」だ[1]。同ドキュメントは、LLMを活用したシステムを大きく「ワークフロー」と「エージェント」の2種類に分類している。

「ワークフロー」は、LLMとツールが事前に定義されたコード経路を通じて調整される仕組みだ。どのステップを踏むかは開発者が設計し、AIはその設計の中で定められた役割を担う。一方「エージェント」は、LLM自身が動的に自らのプロセスとツール使用を指示する仕組みだ。何をすべきかの判断をAIが主体的に行い、開発者は結果に対してのみ関与する。

この境界線は、「誰がプロセスをコントロールするか」という問いに集約される。Agentic Workflowはあくまでも「設計者がフローを握る」構造であり、エージェントは「モデルが判断する」構造だ。

エージェントは「部品」、ワークフローは「設計図」

Weaviateは、エージェント単体ではなく、推論・ツール・メモリ・役割分担を含むワークフローとして設計されてはじめて、実運用に耐えるシステムになると説明している[2]。本稿ではその関係を、エージェントを「部品」、Workflowを「設計図」と捉えると理解しやすい。

この関係はシステム開発でいえば「関数」と「アーキテクチャ」の違いに近い。優れた関数がいくつあっても、それらをどう繋ぐかという設計がなければシステムは動かない。Agentic Workflowは、エージェントの「つなぎ方」と「制御の仕組み」を定義するものだ。

AIエージェントだけでは機能しない場面

複数のシステムをまたぐ業務

単一のAIエージェントが最も力を発揮するのは、「スコープが明確で、外部データへのアクセスが必要な多ステップタスク」だとGoogle Cloudは指摘している[3]。逆に言えば、スコープが広がるほど単一エージェントの限界は顕在化する。

たとえば「顧客からの問い合わせを受け取り、CRMを更新し、在庫を確認した上で回答を生成して送信する」という業務フローを考えてみよう。これを1つのエージェントに任せると、ツール数の増加やタスクの複雑化により性能が落ちうると、Google Cloudは指摘している[3]。複数の専門化されたエージェントに役割を分散させ、オーケストレーターがそれを制御するAgentic Workflowの設計こそが、このような場面に適している。

予測可能性とガバナンスが求められる場面

金融や医療、法務といったリスクの高い業種では、エージェントが「自律的に判断した」では済まない場面が多い。Google CloudのAI Agent Trends 2026レポートによると、セキュリティ領域でのエージェント導入は急増しており、約半数の組織がすでに運用しているが、82%のアナリストが脅威の見落としリスクを懸念しているという[4]。

このような環境では、処理経路や承認ポイントを明示できるAgentic Workflowが有効だ。特に「Human-in-the-loop(人間確認ポイント)」を設計に組み込めるのは、ワークフロー構造の大きな利点である[3]。エージェントの自律性を残しながら、人間が介入できる設計点を明示的に設けることができる。

Anthropicが示す代表的な5つのワークフロー・パターン

タスク構造に応じたパターンの選択

Anthropicは、ワークフローを5つのパターンに分類している[1]。

プロンプトチェーンは、前のステップの出力を次のステップが受け取って処理する、最もシンプルな連鎖構造だ。文書の要約→翻訳→校正といった直列処理に向く。

ルーティングは、入力内容を分類し、それぞれ適切な専門ルートへ振り分ける。問い合わせ種別によって対応エージェントを切り替えるようなシナリオで機能する。

並列化は、独立した複数のタスクを同時並行で処理し、最後に結果を統合する。時間効率が高く、複数観点からの評価(投票)にも応用できる。

オーケストレータ-ワーカーは、中央のLLMが全体計画を立て、専門ワーカーエージェントに動的にタスクを振り分ける構造だ。複雑な業務の自動化においてよく使われる。

評価器-オプティマイザーは、一方のLLMが出力を生成し、もう一方がその質を評価してフィードバックを返すループ構造で、精度が重要なコンテンツ生成や翻訳に有効だ。

いつ複雑さを加えるべきか

Anthropicは重要な警告も発している。「多くの場合、単純なLLM呼び出しで十分。複雑さは証明可能な改善がある場合にのみ追加すべきだ」[1]。

この言葉は実践的な指針として価値が高い。Agentic Workflowのパターンは強力だが、過剰な設計はコストとレイテンシを増加させる。段階的に始め、単一エージェントの限界が見えてから拡張するアプローチが現実的だ。そのため、開発初期は単一エージェントから始め、必要に応じてマルチエージェント構成を検討するのが現実的だと、Google Cloudは設計ガイドで示している[3]。

設計の分岐点——どちらを選ぶかの判断軸

Google Cloudが示す選択基準

Google Cloudのアーキテクチャガイドは、ワークフローパターンの選び方を具体的な問いとして整理している[3]。タスクが予測可能で固定された順序で実行できるなら「シーケンシャルワークフロー」を選ぶ。複数回の改善サイクルが必要なら「反復的洗練パターン」が適切だ。タスクの経路を事前に決定できない動的なケースでは「コーディネーター(AI主導のルーティング)」が向く。問題が複雑で曖昧なほど「階層的タスク分解」という段階的なマルチエージェント構造が威力を発揮する。

重要なのは、これらの判断基準が「AIの能力」ではなく「タスクの性質」に基づいていることだ。何かを自動化しようとするとき、最初に問うべきは「どのAIを使うか」ではなく「このタスクはどんな構造をしているか」なのだ。

「まずシンプルに」の原則

Google CloudのAI Agent Trends 2026によると、エージェントを初期導入した企業の88%がすでにポジティブなROIを確認しているという[4]。この数字は、複雑な設計が必ずしも成功の前提でないことを示している。実務上は、まずスコープを絞った単一エージェントや小規模なワークフローから始め、効果を確認しながら段階的に拡張するアプローチが現実的だ。

「エージェントをとにかく増やせば解決する」という発想は危険だ。増やすほどエージェント間通信のコストが増し、トラブルシューティングも複雑になる。設計の分岐点に立ったとき、最初に検討すべきは「この複雑さは本当に必要か」という問いである。

さいごに

AIエージェントとAgentic Workflowの違いは、技術的な差異ではなく設計思想の差異だ。エージェントは「自律的に動く部品」であり、ワークフローはその部品を「目的に向けて制御する設計図」だ。この区別を持たずにエージェントを導入しても、業務は思うように変わらない。

複数システムをまたぐ業務、ガバナンスが必要な業務、長期的な精度改善が求められる業務——こうした場面では、エージェントの自律性だけでなく、それを包むワークフロー設計こそが成否を分ける。AIを使いこなすとは、モデルの賢さを活かす設計を作ることだ。まずシンプルな設計から始め、タスクの性質に応じてパターンを選ぶ。その積み上げが、実用的なAgentic AIの基盤となる。

出典

この記事を書いた人

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Yuji Oe

ソリューションサービス事業部

10年以上の業界経験(主にデータベース分野)を生かし、現在はSmart Generative Chatの導入のプロジェクトマネジメントを中心に活動。

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