「AIを入れたのに、何も変わっていない」——そう感じているビジネスパーソンは、世界中に驚くほど多くいます。AIへの投資規模が拡大し続けるなかで、なぜこれほど多くの企業が成果を出せないのでしょうか。RAND Corporation、McKinsey、BCG、そしてGartnerといった信頼性の高い調査機関が発表した最新データをもとに、失敗の構造を読み解きます。
3大調査が突きつける「導入」と「成果」の断絶
数字が示す深刻な現実

2024年に公表されたRAND Corporationのレポートは、65名のデータサイエンティスト・エンジニアへのインタビューをもとに作成されたものです。その結論は明快でした——AIプロジェクトの失敗率は80%以上に達しており、これはAIを含まない通常のITプロジェクトの約2倍の水準だということです[1]。
BCGが59カ国・1,000名以上の経営幹部を対象に実施した調査でも、AIから具体的な価値を創出できている企業はわずか26%にとどまり、74%は成果を生み出せていないことが報告されています[2]。さらにMcKinseyの2025年調査によれば、88%の組織がなんらかの業務でAIを活用しているにもかかわらず、企業レベルのEBIT(利払い・税引前利益)に対してAIの貢献を実感できている組織はわずか39%です[3]。「使っている」と「成果が出ている」の間には、深くて暗い谷が広がっています。
「失敗予告」はすでに現実になっている
Gartnerは2024年7月、生成AIプロジェクトの少なくとも30%がPoC段階以降に放棄されるという予測を発表しました。その理由として挙げられたのは、データ品質の低さ、コストの膨張、不十分なリスク管理、そして「ビジネス価値の不明確さ」です[4]。さらに2025年2月には、63%の組織がAIに適したデータ管理体制を持っていないか、自社が持っているかどうか自体を把握できていないと発表しています[5]。Gartnerの試算では、AIに対応したデータ基盤を持たない組織のプロジェクトは、2026年末までに60%が放棄される見込みです[5]。
また、MITのNANDA initiativeによる調査(150名以上のビジネスリーダーへのインタビューおよび350名の従業員調査をもとにしたもの)は、生成AIパイロットプロジェクトの約95%が急速な収益成長をもたらしておらず、大半が「停滞状態」にあると指摘しています[6]。失敗の予告は、すでに現実のデータとして積み上がっています。
失敗の本質は技術ではなく「問いの立て方」にある
ワークフロー再設計だけが成果を生む

複数の調査が共通して示しているのは、AIの失敗原因がモデルの性能や技術選定の誤りではなく、業務設計の思想そのものの問題だという点です。McKinseyは、調査したすべての因子の中で「ワークフローの根本的な再設計」が成果への寄与度が最も高い要素だと結論づけています。高い成果を出しているAI先進企業は、そうでない企業と比べて約3倍の確率でワークフローを根本から作り直しており[3]、AIを既存業務の上に重ねるのではなく、AIが得意とすることを起点に業務プロセス全体を組み直しています。
BCGの調査もこの構造を補強しています。成果を出しているAIリーダー企業の特徴は、間接業務の効率化にとどまらず、コアビジネス機能(オペレーション・営業・R&Dなど)を変革対象にしている点です。同調査では、AIが生む価値の62%はコアビジネス機能から生まれており、支援業務への部分適用では企業の競争優位には直結しないと指摘されています[2]。「社内FAQをAI化する」「議事録を自動生成する」といった取り組みは確かに便利ですが、それだけで勝負を決める変革にはなりません。
データの問題は「原因」ではなく「症状」だ

「データが汚いからAIが機能しない」という説明は、半分しか正しくありません。RAND Corporationの報告書は、最も多く挙げられた失敗原因として「解くべき問題の誤解・誤伝達」を筆頭に置いており、データ不足はその下位に位置づけています[1]。ビジネス側と技術側が「何のためにAIを使うのか」を共通言語で語れないまま開発が進み、PoC段階では動くように見えたモデルが、本番展開の段階で業務と噛み合わず頓挫する——この構造が最も多い失敗パターンです。
Gartnerが指摘するデータ管理の問題も、本質は同じです。63%の組織がAI対応のデータ管理体制を持てていない背景には、AIが必要とするデータ設計の思想が、従来型ITシステム向けのそれとは根本的に異なるという認識の欠如があります[5]。従来のITは「現行業務をデジタル化する」ための設計でしたが、AIは「成果から逆算して業務とデータを再定義する」という逆方向の設計を求めます。この認識の転換ができていない組織ほど、データの問題に直面し続けます。
さいごに
世界の信頼性の高い調査機関が出揃って示しているのは、「AIを導入すること」と「AIで成果を出すこと」がまったく別の挑戦だという事実です。成果を出せていない企業に共通するのは、技術力の不足でも予算の少なさでもなく、「このAIで何を変えるか」という問いを業務の末端ではなく成果から逆算して立てられていないことです。
BCGのデータが示すように、AIで1.5倍以上の収益成長を実現している企業は実在します[2]。その差は、ツールの選択ではなく設計思想にあります。まず着手すべきは、AI導入の検討より前に「この成果を出すために、どの業務プロセスをゼロから問い直すか」という問いを経営レベルで立てることです。問いを変えることが、唯一の突破口です。
出典
- [1] The Root Causes of Failure for Artificial Intelligence Projects and How They Can Succeed – RAND Corporation
- [2] AI Adoption in 2024: 74% of Companies Struggle to Achieve and Scale Value – Boston Consulting Group
- [3] The State of AI in 2025: Agents, Innovation, and Transformation – McKinsey & Company
- [4] Gartner Predicts 30% of Generative AI Projects Will Be Abandoned After Proof of Concept By End of 2025 – Gartner
- [5] Lack of AI-Ready Data Puts AI Projects at Risk – Gartner
- [6] MIT Report: 95% of Generative AI Pilots at Companies Are Failing – Fortune(MIT NANDA initiative報道)
