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Yann LeCun退社の真相|World Modelsで挑むLLMのその先

AI業界に激震が走りました。2025年11月、ディープラーニングの父の一人として知られるYann LeCunが、12年間務めたMetaを退社したのです。彼の決断は単なるキャリアチェンジではありません。むしろ、現在のAI研究の主流に対する根本的な異議申し立てであり、次世代AI技術への確信に基づく行動なのです。本記事では、LeCun退社の真相と、彼が注力するWorld Modelsという革新的アプローチについて解説します。

AI界の巨人が動いた12年ぶりの決断

2025年11月、静かに告げられた退社

2025年11月19日、LeCunはLinkedInで正式にMeta退社を発表しました[1]。2013年12月から務めたChief AI Scientist職を退任し、新設のスタートアップAMI Labs(Advanced Machine Intelligence Labs)のExecutive Chairmanに就任したのです。NYU教授職は継続されます。

この退社の背景には、組織内の深刻な対立がありました。2025年6月、MetaはScale AI創業者のAlexandre WangをChief AI Officerとして招聘し、LeCunはWangに報告する立場となりました[2]。LeCunはFinancial Timesのインタビューで、Wangを「若くて経験不足」と公然と批判し、「私のような研究者に何をすべきか指示はしない」と述べています[2]。この発言は、基礎研究から製品化へと軸足を移すMetaの戦略転換への強い反発を示していました。

さらに、2025年4月にリリースされたLlama 4をめぐるベンチマーク操作疑惑も、決定打となりました。LeCunは「結果は少し水増しされた」と認め、「科学者としての誠実さがそれ(沈黙)を許さない」と明言しています[3]。この発言は、企業利益と科学的真実の間で板挟みになった研究者の苦悩を浮き彫りにしました。

AMI Labs設立が意味するもの・物理環境を操るAI

AMI Labsはパリに本拠を置き、約35億ドルの評価額で約5億ユーロの資金調達を目指しています[4]。CEOには音声AI企業Nabla創業者のAlexandre LeBrunが就任し、Metaとはパートナーシップ契約を締結しました(ただし出資は受けていません)[4]。

LeCunは「この種の新研究を追求するにはシリコンバレーの外に出る必要がある」と述べています[5]。これは、短期的な製品開発に追われる大企業の環境では、真に革新的な基礎研究が困難になっていることを示唆します。AMI Labsのミッションは、LLM(大規模言語モデル)を超えた、物理環境を観察・相互作用できるAIシステムの開発です[6]。これは、LeCunが10年以上にわたり追求してきた研究ビジョンを、ようやく自由に実現できる環境を得たことを意味します。

LLMは「行き止まり」という確信

10年来の哲学的対立

LeCunは一貫してLLMを「超知能への道における完全な行き止まり」と批判してきました[7]。2025年のCESでは「自己回帰型LLMが人間レベル知能に到達することは絶対にあり得ない」と断言し、2024年のVivaTechでは「PhD学生にはLLMに取り組まないよう勧める」とまで述べています[8]。

彼が指摘するLLMの欠陥は4つあります。物理世界の理解の欠如、持続的記憶の欠如、真の推論能力の欠如、そして計画能力の欠如です[9]。LeCunはLLMを「暗記で学ぶ学生」に例え、概念を理解して応用できる学生ではないと断じています[9]。この批判は、単なる技術的な指摘ではなく、AI研究の根本的な方向性に関する哲学的な問題提起なのです。

興味深いことに、LeCunはAIの存在リスクに関する懸念を「馬鹿げている」と一蹴します[10]。「超知能を制御する心配をする前に、飼い猫より賢いシステムの設計のヒントさえ必要だ」というのが彼の立場です[10]。この発言は、現在のLLMが真の知能からはるかに遠い存在であることへの確信を反映しています。

スケーリング神話の終焉

LeCunの退社は、AI業界全体が直面している構造的な転換点と時を同じくしています。従来の「スケーリング法則」—データ・計算・パラメータを増やせば性能が上がる—は収穫逓減の兆候を見せ始めています[11]。OpenAIのOrionモデルは訓練20%時点でGPT-4性能に到達しましたが、その後の改善ペースは鈍化しました[11]。

Safe Superintelligence創業者のIlya Sutskeverは「皆が次のものを探している」と認めています[11]。Epoch AIの分析によれば、2030年までに技術的には大規模な訓練が可能ですが、主なボトルネックは電力、チップパッケージング、HBM生産であり、アーキテクチャの革新なしには突破困難です[12]。この状況下で、LLM一辺倒だった業界は、新たなパラダイムを模索し始めています。

World Modelsが切り拓く未来

JEPAという革命的アプローチ

LeCunが提唱するJEPA(Joint Embedding Predictive Architecture)は、LLMとは根本的に異なるアプローチです。LLMが「次のトークン」を予測するのに対し、JEPAは抽象的な世界表現を予測します[13]。これは、葉の揺れやテクスチャといった予測不能な詳細を無視し、タスクに関連する意味(セマンティクス)に集中できることを意味します。

JEPAの研究は、2022年の理論論文から具体的な実装へと急速に進化しています。2023年6月にはI-JEPA(画像用)が発表され、ImageNet低ショット分類で最先端性能を達成しました[14]。2024年2月のV-JEPA(ビデオ用)では、訓練効率が従来の6倍に向上しています[15]。そして2025年6月に発表されたV-JEPA 2は、わずか62時間のロボットビデオから、ゼロショットでpick-and-placeタスクを65-80%の成功率で達成しました[16]。

この成果は、「観察から学び、行動の結果を予測し、計画する」というWorld Modelsの核心的能力を実証するものです。人間の赤ちゃんが少ない例から重力や物体の永続性を学ぶように、AIも学ぶべきだというのがLeCunの信念なのです[17]。

物理世界を理解するAIへ

AMI Labsの技術ロードマップは、短期・中期・長期の3段階で構想されています。短期(〜2026年)ではV-JEPA系列のロボティクス応用拡大とAR/VRアシスタントへの統合、中期(2026-2028年)では階層的JEPAとマルチモーダルJEPA(視覚・音声・触覚統合)の実用化が目標です[18]。長期的には、人間のように世界を理解し、計画し、学習するAIシステム—LeCunが「AMI」と呼ぶもの—の実現を目指しています[18]。

この野心的なビジョンは、AI業界全体の動向とも呼応しています。Google DeepMindのGenie 2/3、NVIDIAのCosmos、Fei-Fei LiのWorld Labsなど、複数の企業がWorld Models関連技術に注力し始めています[19]。ただし、それぞれのアプローチは異なります。OpenAIのSoraは物理シミュレーション的要素を持ちますが、依然としてピクセルレベルの生成モデルであり、JEPAの「表現空間での予測」とは本質的に異なります[19]。

LeCunは一貫してオープンソースAIの強力な支持者であり、「技術ではなく、アプリケーションを規制すべき」と訴えています[20]。この姿勢は、閉じた製品開発競争ではなく、オープンな基礎研究こそが科学の進歩を促進するという信念に基づいています。

さいごに

Yann LeCunのMeta退社は、AI研究史における重要な転換点を示唆しています。それは10年来の哲学的対立の帰結であり、スケーリング一辺倒の業界への異議申し立てであり、科学者としての誠実さを貫く選択です。

AMI Labsが成功すれば、World Modelsが次世代AIの主流になる可能性が開けます。失敗すれば、LLMパラダイムの強靭さが証明されるでしょう。いずれにせよ、この賭けの結果は今後10年のAI研究の方向性に大きな影響を与えます。LeCun自身の言葉を借りれば、「いつかは機械が人間と同等以上になることに疑問の余地はない」のです[21]。しかし、その道は「LLMのスケーリング」ではなく「世界を理解するAI」にある—それが彼の確信であり、12年間の環境を離れて新たな旅に出た理由なのです。

出典

この記事を書いた人

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Yuji Oe

ソリューションサービス事業部

10年以上の業界経験(主にデータベース分野)を生かし、現在はSmart Generative Chatの導入のプロジェクトマネジメントを中心に活動。

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