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ソフトバンクGB200稼働開始|Blackwell GPU 1,224基で国産LLM開発加速

ソフトバンクが2025年12月、NVIDIA GB200 NVL72を搭載したAI計算基盤の稼働を開始しました。Blackwell GPU 1,224基という規模は注目されがちですが、真の価値は別のところにあります。この基盤は、国産LLM開発における「失敗のコスト」を劇的に下げ、日本の開発者が何度でも実験を繰り返せる環境を初めて提供します。計算資源の希少性が解消されることで、日本独自のタスク・データ・安全性設計を徹底的に試行錯誤できる時代が始まるのです。

GB200基盤が実現する計算能力の飛躍

Blackwell GPU 1,224基の技術構成

ソフトバンクが稼働させたGB200基盤は、NVIDIA GB200 NVL72というラックスケールのAIコンピューティングシステムを採用しています。1ラックあたりNVIDIA Grace CPU 36基とNVIDIA Blackwell GPU 72基を搭載し、今回稼働を開始した基盤全体ではBlackwell GPU 1,224基という構成になっています[1]。この基盤は将来的に4,000基超へ拡張される計画で、拡張後の理論ピーク性能は10.6EFLOPS規模に達する見込みです。

冷却システムにも先進技術が採用されています。GPUやCPUを直接冷却する「Direct-to-Chip」液冷構造により、高密度環境でも安定した性能と優れた電力効率を実現しています[1]。この技術は、大規模なLLM学習を長時間継続的に実行する上で不可欠な要素となります。基盤の用途は二つあり、顧客専用のNVIDIA GPUリソースを提供するサービスと、SB Intuitionsによる国産LLM「Sarashina」の商用サービス開発基盤として活用されます[1]。

国家規模のインフラへの拡張計画

ソフトバンクのAI計算基盤は、段階的な拡張により国家レベルのインフラへと進化しています。2023年時点では0.7EFLOPS規模の基盤でしたが、2024年5月には経済産業省の「クラウドプログラム」供給確保計画の認定を受け、約1,500億円規模の設備投資による大幅な拡張が発表されました[2]。新設される基盤全体の理論ピーク性能は25EFLOPSに達し、既存基盤の約37倍の計算処理能力を目指すとされています[2]。

この拡張計画には、BlackwellアーキテクチャGPUを含むNVIDIAアクセラレーテッドコンピューティングが採用され、DGX B200搭載のNVIDIA DGX SuperPODを世界最速級で導入する企業の一社となります[2]。さらに重要なのは、経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資クラウドプログラム」に認定されたことで、AI計算資源がエネルギーや通信と同じく「安定供給すべきインフラ」として政府から位置付けられた点です[2][3]。

「失敗を許容するマシン」という本質

LLM開発における真のボトルネック

LLM開発は「巨大な1回の学習ジョブ」として語られることが多いですが、現場の実態は大きく異なります。前処理やトークナイズの方法、日本語と英語のデータ比率、対話型と検索拡張型(RAG)のハイブリッド設計、安全性チューニング手法(RLHFやRLAIFなど)、特定業種向けのカスタマイズなど、細かい設計パラメータの組み合わせを何十回、何百回と試すことが最終的なモデル品質を決定します。しかし計算資源が限られている環境では、「一番勝ちそうな設定」に絞った一発勝負に近い学習を行うか、小規模な実験で推測して本番では大胆な変更を避ける保守的な戦略を取らざるを得ません。

つまり、計算資源の希少性は「失敗の自由」を奪ってしまうのです。新しいアプローチを試したくても、失敗した場合のコストが高すぎるため、既存の海外モデルを追いかける追従型の開発に陥りやすくなります。ソフトバンクのGB200基盤が目指すのは、この構造的な制約を解消することです。0.7EFLOPS→10.6EFLOPS→25EFLOPS級というスケールアップは、国全体のLLM実験需要に対して計算資源を「飽和」させる方向への投資なのです[1][2]。

失敗のコストダウンが生む独自性

経産省がクラウドプログラムとして認定し助成を予定しているのは、この供給安定性を国家として担保するためです[2][3]。この「飽和」が意味するのは、「1つのLLMを確実に作るための計算資源」から「複数のLLM・複数の設計方針を同時に試すための計算資源」への質的転換です。SB Intuitionsが開発する「Sarashina」は、パラメータスケール(数百億〜1兆パラメータ級)、データの選び方(日本語特化コーパスの設計)、安全性・ガバナンス条件(日本の法制度・文化に即した応答制御)といった軸を反復的に試せる立場を得ます[1]。

1回失敗しても、もう1回やり直せる状況が初めて国内に常設されるのです。これは、OpenAIやAnthropic、Google DeepMindが「実験のためにモデルを何度も作り直す」文化を持てたのが、巨大な自前計算基盤を握っていたからであることと同じ構造です。ソフトバンクは単なるGPU購入者ではなく、NVIDIAの最新アーキテクチャとソフトウェアスタックを国内の共用実験インフラとして早期に固めようとしているプレイヤーなのです[4]。

国産LLMの独自性を決める「失敗の蓄積」

日本語特有の設計空間における実験

「国産LLM」という言葉を冷静に分解すると、半導体はNVIDIA製、アーキテクチャは世界標準のBlackwell、ソフトウェアスタックもNVIDIA AI Enterpriseなど汎用プラットフォームです[4]。この条件下で「国産」を名乗れる唯一の領域は、どの日本語データをどう集め、どのタスク(行政文書、契約書、医療、製造など)に焦点を当て、どの価値観・安全基準で応答を制約するかという学習とチューニングの設計空間です。

しかしこれは机上で最適解を設計できる問題ではありません。誤った制約や偏ったデータ選択は、ユーザーのフィードバックの中で初めて露呈します。だからこそ、「日本語と日本社会に特化した失敗」をどれだけ早く・どれだけ多く経験できるかが国産LLMの独自性を決めるのです。GB200の1,224基のBlackwell GPUは、国産LLMが「海外モデルの日本語版」に留まるのか、それとも日本の制度・産業・文化に最適化された独自のエージェント群に進化するのか、その分岐点を「失敗の回数」という形で左右します[1]。

経済安全保障としての失敗の内製化

経産省のクラウドプログラムは、AI計算資源を「特定重要物資」として位置付けています[2][3]。多くの議論は「海外クラウドへの過度な依存は危険だ」という方向で語られますが、もう一歩踏み込むと「どこで失敗するか」を国内に留めておきたいという意図が見えてきます。LLM開発過程で行われる膨大な実験は、モデルが何を学び、何を捨てたかの履歴そのものです。

どのデータセット構成がダメだったか、どの安全性制約が過剰だったか/緩すぎたか、どの業種向けカスタマイズが意味を持たなかったかといった「失敗のログ」は、成功したモデル以上にその国の社会・産業構造を映し出す機微情報でもあります。国内にGB200級の実験基盤を持つことは、単に推論や学習を国内で完結させるだけでなく、「国として、どのような失敗を経てAIをデザインしたか」というプロセス知を内製化することでもあるのです[2][3]。

さいごに

ソフトバンクのGB200基盤稼働は、単なる最新ハードウェアの導入ではありません。Blackwell GPU 1,224基という規模は、日本の開発者に「失敗する権利」を与え、国産LLMが真に独自性を持つための土壌を整えます[1]。0.7EFLOPS→10.6EFLOPS→25EFLOPS級という計算資源の飛躍的な拡張は、「1回きりの成功」から「大量の失敗」へと開発スタイルを変えるパラダイムシフトです[1][2]。

この基盤の真価は、どれくらい速いかではなく、何回失敗できるかにあります。SB Intuitionsが開発する「Sarashina」のような国産LLMは、日本語特有のタスク、データ選択、安全性設計を反復的に試し、失敗から学ぶことで洗練されていきます[1]。経産省のクラウドプログラム認定と最大421億円の助成は、この「失敗できるだけの余裕」を国家として維持する意思の表れです[2][3]。

日本はようやく、米ビッグテックと同じく「実験のためにモデルを何度も作り直す」ことができる環境を手に入れました。GB200の1,224基は、あなたが10回失敗する権利を買ってくれたに等しいのです。1回の本番学習より、10回の実験設計を意識した方が、長期的には強い国産LLMにつながります。国産LLMを「完成品として調達する対象」ではなく、「自分たちの業務と制度に合わせて一緒に失敗してくれるパートナー」として扱えるかが、GB200時代の競争力を決めるでしょう。

出典

この記事を書いた人

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Yuji Oe

ソリューションサービス事業部

10年以上の業界経験(主にデータベース分野)を生かし、現在はSmart Generative Chatの導入のプロジェクトマネジメントを中心に活動。

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