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医療・介護現場の生成AI導入障壁|個人情報保護と正確性のリスクは

生成AIの医療・介護現場への導入が注目を集めています。文書作成の効率化や業務負担軽減への期待が高まる一方で、現場では導入に踏み切れない施設が少なくありません。その背景には「個人情報保護」と「正確性」という二つの大きな障壁が存在します。本記事では、この二大障壁の実態を整理し、導入検討者・ソリューション提供者双方に向けた現実的な突破口を探ります。

個人情報保護の壁:なぜ医療データは生成AIに入力しづらいのか

要配慮個人情報という高いハードル

医療・介護データを生成AIに入力する際の最大の障壁は、個人情報保護法における「要配慮個人情報」規制です。個人情報保護委員会は、病歴や健康診断の結果、診療・調剤の事実などを、差別や偏見を招きうる「要配慮個人情報」(法2条3項)と位置づけています。こうした情報の取得には原則として本人の明示的な同意が必要であり、さらにオプトアウトによる第三者提供(法27条2項)は一切認められていません[1]。

一般的なオフィス業務であれば、社内文書をAIに入力して要約させることに大きな法的リスクはありません。しかし医療・介護現場では、日常的に扱うデータのほぼすべてが要配慮個人情報に該当する可能性があります。この点が、他業界と比較して導入ハードルが格段に高い理由です。

また、要配慮個人情報を含む個人データで漏えい等が発生した場合には法的リスクが避けられません。このような厳格な規制が、医療機関のAI導入を慎重にさせる大きな要因となっています。

越境データ移転という見落とされがちなリスク

さらに深刻なのが越境データ移転の問題です。多くの商用生成AIサービスは海外サーバーでデータを処理するため、個人情報保護委員会のガイドラインは、原則として「外国にある第三者への個人データの提供を認める旨の本人同意」(法28条1項)を求めています。例外として、EUや英国のように日本と同等水準の保護制度を有すると指定された国や、CBPR認証等により相当な措置を講じている事業者に対しては、一定条件で同意なしの移転も認められます[2]。

ただし「クラウド例外」という対応策も存在します。個人情報保護委員会のクラウド関連Q&Aでは、クラウド事業者が契約上「サーバ内の個人データを取り扱わない」こととし、適切なアクセス制御を実施している場合には、法27条の「第三者提供」には当たらないと説明されています。エンタープライズ向け生成AIサービスで「入力データは学習に用いない」「運営事業者は内容にアクセスしない」と明記することは、このクラウド例外の考え方に沿った設計と言えます[3]。入力データがAI学習に使用されない設定が可能なサービスや、国内リージョンでの処理を選択できるサービスを活用することで、このリスクを回避している医療機関も増えています。

正確性の壁:ハルシネーションが医療現場で許されない理由

「もっともらしい嘘」の危険性

生成AIのもう一つの致命的課題がハルシネーション(幻覚・誤情報生成)です。生成AIは医学用語を正確に使用しながら、事実と異なる内容を「もっともらしく」生成することがあります。多忙な臨床現場で即座に誤りを検出することは容易ではありません。

特に危険なのは投薬情報の誤りです。薬剤の相互作用を見落としたり、投薬量を誤って提示したりする事例が研究で報告されています。架空の論文を実在する文献IDとともに生成するケースもあり、学術的裏付けがあるように見せかけた誤情報は専門家でも見抜きにくいのです。

介護分野特有の課題

介護分野では制度改正への対応遅れも課題となります。生成AIの学習データが最新でないため、介護保険制度の変更が反映されないケアプランが提案される可能性があります。制度は頻繁に改正されるため、AIの出力を鵜呑みにせず、常に最新の制度情報と照合する運用が欠かせません。

ファクトチェックの負担がAI導入のメリットを上回ってしまえば本末転倒です。この点が、医療・介護現場で生成AI導入が慎重にならざるを得ない本質的な理由です。

先行事例に学ぶ現実的な導入アプローチ

成功事例に共通するパターン

すでに生成AIを導入し成果を上げている医療機関には、共通するパターンがあります。それは「非患者情報領域や文書作成支援から段階的に導入する」というアプローチです。

いきなり診断支援に使うのではなく、議事録作成や事務書類から始めて効果を検証し、徐々に臨床領域へ拡大しています。退院時サマリーや診療情報提供書の下書き作成、多言語翻訳による外国人スタッフとのコミュニケーション支援など、比較的リスクの低い領域で実績を積み上げてから次のステップに進むのが王道と言っていいでしょう。

オンプレミスかクラウドか

技術選択としては、外部インターネット接続が不要なオンプレミス型LLMと、エンタープライズ向けクラウドサービスの二択が主流です。

大規模病院であればオンプレミス導入のコストを正当化しやすく、中小規模であればデータ非学習設定や国内リージョン処理が可能なエンタープライズクラウドが現実的な選択肢となります。医療特化型SaaSは、導入負荷を抑えたい施設に適しています。

導入検討者・提供者それぞれへの示唆

導入検討者(医療機関・介護施設)

導入を検討する医療機関・介護施設の経営層やIT部門は、以下の点を押さえておきましょう。

まず技術選択において、セキュリティ要件を満たすサービスを選定することです。閉域接続やデータ非学習設定は必須条件と考えるべきです。

次に段階的導入を徹底することです。議事録・マニュアル検索など非患者情報領域から開始し、医療文書下書き作成、電子カルテ連携、診療支援へと段階的に拡大するのが推奨されます。

最後に、医療・介護データの多くが法2条3項の要配慮個人情報に該当し、取得には原則本人同意が必要であること[1]、越境移転には法28条1項に基づく本人同意または同等水準国・相当措置に関する要件が課されること[2]、クラウド事業者が個人データを取り扱わない形での利用は第三者提供に当たらないこと[3]を前提に、自施設の生成AI利用ポリシーを設計することが重要です。

ソリューション提供者

AIソリューションを提供するベンダーやスタートアップは、医療情報システムに関する安全管理ガイドライン(3省2ガイドライン)への準拠を大前提としつつ、閉域接続やデータ非学習設定の標準化、医療特化チューニングによる精度向上、現場スタッフの習熟コスト最小化を訴求ポイントとすべきです。

「導入して終わり」ではなく、継続的な精度改善とサポート体制の構築が、医療・介護分野での信頼獲得につながります。

まとめ

医療・介護現場における生成AI導入は、個人情報保護とハルシネーションという二大障壁に直面しています。要配慮個人情報の厳格な規制と越境データ移転の問題、そして人命に関わる領域での誤情報リスクは、他業界とは比較にならない重さを持ちます。

しかし、先行導入事例が示すように、適切な技術選択と段階的アプローチによって、これらの障壁を乗り越えることは可能です。非患者情報領域から始めて実績を積み、セキュリティ要件を満たすサービスを選定し、業界ガイドラインに準拠した運用ルールを整備する。この基本を押さえれば、業務効率化と医療・介護の質向上を両立させる道筋が見えてきます。

電子カルテ標準化の進展やRAG技術によるハルシネーション抑制など、環境は着実に整いつつあります。法的リスクと技術的限界を正しく理解した上で、今こそ慎重かつ前向きに導入を検討すべき時期と言えるでしょう。


参考文献

この記事を書いた人

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Yuji Oe

ソリューションサービス事業部

10年以上の業界経験(主にデータベース分野)を生かし、現在はSmart Generative Chatの導入のプロジェクトマネジメントを中心に活動。

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